- 元木 大輔 Daisuke Motogi /DDAA、DDAA LAB代表
- 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、スキーマ建築計画勤務。2010年DDAA設立。2019年、コレクティブ・インパクト・コミュニテイーを標榜し、スタートアップの支援を行うMistletoeと共に、実験的なデザインとリサーチのための組織DDAA LABを設立。2021年第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展に参加。2023年夏にオープンしたコミュニティ商店街「LOCUL」のインテリアディレクション、デザインを担当。
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JOURNAL
vol.203
JOURNAL - 2024.11.13
JOURNAL - 2024.11.13
vol.203
元木 大輔 Daisuke Motogi/DDAA、DDAA LAB代表
「LOCUL」のインテリアディレクション・デザインを手掛けた建築家の元木大輔さんをご紹介します。
サブスク型のショップやシェアオフィス、カフェ、イベントスペースを併設したコミュニティ型商店街「LOCUL」のインテリアディレクション・デザインを手掛けた建築・デザイン事務所DDAAを主催する建築家の元木大輔さんにお話を伺いました。
Q.はじめにDDAA立ち上げの経緯を教えてください。
自らというよりは個人事業主としてやっていた時にすごくお世話になったクライアントに「そろそろ会社にしたほうがいいんじゃない?」と言われたのがきっかけです。会社の作り方など全く分からなかったのですが、その流れで色々とサポートしていただき立ち上げました。会社名はできるだけ意味がなくて、領収書を書くときに面倒くさくない短い名前にしたいと思っていて、『も』か『だ』でいいんじゃないかな。と思っていたのですが、当時のスタッフと相談してそれはさすがに、、、ということで、最終的に『だ』とも読めるDDAAになりました。
Q. プロジェクトでご一緒させていただいた際、ものごとをとことん深堀される姿勢が印象的でした。そういった姿勢はどこからきているのですか。
興味があることを調べることがとにかく好きなんです(笑)。きっかけは中学生の頃に図書館で『ロックンロールの歴史』というようなタイトルの終戦の頃の歴史から始まる本を読んで、時代性のある表現は当時の歴史的事実と密接に関係していることに気づいたことです。ベトナム戦争の時に、徴兵や派兵に反対したアメリカの若者たちが兵役を免れてヒッピーになったり、失業率が異常に高いイギリスでパンクのような反体制の音楽が生まれる、といったように当たり前ですが時代と一致した流れがあったことを知りました。音楽だけでなく、ファッションもアートも政治も経済も何か一つ興味を持って深堀していくと色々なことが繋がってくることがわかったんです。そうしているうちに調べることがどんどん楽しくなってきて、深堀していくことが好きになりました。
Q. 新しいアイデアはどのように生み出しているのですか。
これも音楽の影響が大きいですね。例えばヒップホップが生まれた時は、その直前に流行ったソウルや、ディスコ、ジャマイカのサウンドシステムなど、当然ですけど当時の時代性の上に成り立っています。常に何かの影響を受けていたり、アイデアは時代と繋がっているものです。もし突然変異的に新しいものが生まれたとしても、一続きのものの延長線上であることに変わりはなく、アンチテーゼかカウンターの場合がほとんどなので、アイデアを考えるうえで重要なのは、急な閃きではなく、コンテクストです。
具体的な話だと、DDAAで採用しているアイデアをつくるときの手法の一つに、パソコンの中に「2024年気になっているもの」というネタ帳みたいなフォルダがあります。2006年のフォルダが最初なので、もう20年分の興味のストックですね。例えば2024年の中には今の時点で1500個位のイメージがあって、読んだテキストや、撮った写真、見た展覧会の記録など色々な気になったものがあまり整理されずに入っています。このレファレンスソースをそのまま作っちゃうと、ただのものまねになってしまうので、さらに要素に分解してみたり、そこに現代性というか、今の要素をプラスしたりして、プロジェクトが始まったら1個ずつ試してみるやり方をとっています。
なので、アイデアが降ってくるのを待つようなことは僕はあまりなくて、貯めてきたアイデアストックからその時に合わせてセレクトしていく感じでやっています。
<リアルゲイトとの協業プロジェクトについて>
Q. 商業施設として新たな試みとなったコミュニティ型商店街「LOCUL」のプロジェクトについての想いや、開業後一年が経ち感じることなどがあれば教えてください。
商業空間の中でも、コンビニ的なマニュアルがしっかりした場所は、店員が誰であっても同じコミュニケーションや営業が成立するような、変数がほとんどない効率を優先した仕組みになっています。それに対して、商店街的な場所は、土着的で共通項が地域という場所性のため、距離で関係が形成され、マニュアル的な要素が低く融通が利くような、暖かいコミュニティができますが、その分コミュニケーションコストはとても高い。
都市部はコンビニ的なドライさを求めて発展してきましたが、本当にそれでいいの?とみんなが漠然と疑問を抱き始めています。この疑問に空間の問題として何か提案できるのではないか?というのが今回のチャレンジです。
コミュニティが主体の商売の場では、みんながある程度同じ興味をもっているのでコミュニケーションコストも低く、マニュアル的ではない個人間の関係が生まれ、新しい商店街のあり方ができるのではないかと考えました。竣工後もどんどんと変化していくことを期待して設計しましたが、実際に行くたびに変化してイベントも盛り上がっているので、すごいなと思っています。
Q. 活動の原動力や仕事を続けていく上での工夫などはありますか。
こうなりたいみたいな強い欲望がそんなにないので、活動の原動力ってあまりないんですよ。ただ、おいしいものが食べられないとか、好きな音楽が聴けないのは嫌なので、ちゃんと仕事はしなきゃいけないと腹をくくっています(笑)。
自分の性格を客観的に見ると、飽きっぽいので飽きないための工夫はしていて、そのためにここ数年は、やったことのないプログラムか、東京と日本以外の仕事を優先度高くやっています。日本の仕事だけをしていると、関わるみんなが共有している文化の背景が同じなので、進めやすいのですが全く新しい視点を探すのは難しい。おもてなしや、あいさつ一つとっても、共通のバックボーンの上に全部が成り立っているので、僕達の生活と地続きである東京的/日本的な文化や考え方、デザインの精度を高めていく作業に近いです。やったことのないプログラムや、日本以外のプロジェクトは、そもそもの前提となる習慣や文化が違うので、分からないことが多くてワクワクします。知らないことを調べたり、新しいチャレンジをすることは好きなので、やったことのないことを楽しみながら仕事ができるように工夫はしていますね。
Q. 今後やってみたいことを教えてください。
今、独立して約14年で東京のマナーみたいなものが何となく分かってきたので、ここ数年やっているような特に国外の文化圏の違う仕事を少しずつ増やしていって、普段とは全く違う環境に出来るだけ多く行ってみたいですね。知らない環境へ行くと、朝起きた瞬間から寝るまで全部が見たことがないもので、大体のものがヒントになります。自分をアップデートする意味でも違う環境に行くことは凄く大切だと思うので続けたいです。そして、そのうち飽きちゃうからまた次を考える。その繰り返しですね。
―DDAA WORKS
- 01ーHIROPPA
- 長崎県波佐見町で陶磁器の企画・販売を手がける「マルヒロ」のための、公園と店舗の計画。遊具の代わりに、人が腰かけたり、滑ったりするための「きっかけ」を地面に与えることで居場所をデザインしている。土を盛って斜面をつくりつつ、その上部に日陰をつくるためのパーゴラを設置したり、廃品の陶器を細かく砕いた砂を敷き詰め、砂遊びができるビーチを設ける。ビーチは、浅く水を貯めれば波打ち際のようなじゃぶじゃぶ池もつくれるし、夏には水をたくさん貯めて水遊びもできる。
(写真:Kenta Hasegawa) - WEB:https://hiroppa.hasamiyaki.jp/
- 02ーNOT A HOTEL ANYWHERE
- 年に限られた日数しか使われない別荘の所有形態を考え直すことで、新しい暮らしを提案する「NOT A HOTEL」のための住宅兼ホテル。5台のビンテージのトレーラーを母体に、寝室車や書斎車といったように、1台にひとつの機能だけが備わった車体5台でひとつの居住空間となる。土地に縛られることなく、そのときどきで必要な車体を選んで旅先にもち運ぶこともできる。
(写真:Kenta Hasegawa)
WEB:https://notahotel.com/anywhere