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JOURNAL
2025.09.17

設計事務所CLOCK代表・プロデューサー
萱野 喬

築56年になる旧シェアハウスのリノベーションプロジェクト「NEUK shirokanetakanawa(ヌーク白金高輪)」。本施設の外観・エントランス・共用ラウンジのデザインを手掛けた設計事務所のCLOCK代表・プロデューサーの萱野 喬さんをご紹介します。

「感覚」と「論理」を相互に掛け合わせたデザインプロセスを重要視し、建築・インテリアデザインを主軸としながら、様々なクリエイターと共創し、全方位的なクリエイティブを一気通貫で手掛ける、設計事務所のCLOCK代表・プロデューサー萱野 喬さんに、会社を設立した経緯や、今回のプロジェクトについてお伺いしました。

CLOCK代表・プロデューサー
萱野 喬

1987年生まれ。大阪府出身。早稲田大学卒。
不動産・建築領域でのプロデュース会社にて、商業施設やオフィスのブランド開発に従事した後、2019年にCLOCKを立ち上げる。ブランドのコンセプトメイキングから店舗設計に至るまで一気通貫したクリエイティブアウトプットを得意とする。主なプロジェクトに日本橋兜町BANKのインテリアデザイン、リクルート本社社員食堂のプロデュース、S.Weil by Hotel New Grandのブランド開発等を行う。

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-CLOCKを設立された経緯について教えてください。

もともと大学卒業後にオフィスデザインの会社に入り、設計と施工に携わっていました。その後、より広く建築や不動産、クリエイティブを支える仕事がしたいと思い、店舗経営やデベロッパーに対する不動産コンサルティングを行う会社に転職しました。そこで不動産の企画、設計、グラフィックやクリエイティブのディレクション、また事業開発や事業収支の作成、PRなど、いわゆる建築プロデューサーとして、川上から川下まで多岐にわたる業務を経験しました。また、直営店舗の開発においては、社内の運営メンバーと経営陣の間に立ち、レストラン、ホテル、コワーキングスペース、スタジオなど多様な業態の店舗開業を担当しました。

そのなかで、企画から建物・店舗をつくり、ブランドとしても、事業としても成功させていくという”一気通貫で考えていく必要性”を叩き込まれ、店舗開発の領域においては、”事業主目線”で全体を見ながら取り組む力が養われました。例えば1億円を投じてお店をつくる場合、その投資を何に使い、何年で回収し、どの程度の売上目標を設定するのかといった事業計画が、現場の運営にどれほど大きな影響を与えるのか、”建築が現場に与える影響”を身をもって実感しました。

建築プロデュースという仕事は、よく”映画のプロデューサー”に例えられます。それは事業性を担保しながら、プロジェクトを商業的な成功に導いていくという点で、両者に共通する役割があるからです。私は今、その”映画のプロデューサー”のような立場で建築プロデュースの仕事をしています。 一方で建築デザインを行う人というのは、演出責任者のようなもので、ある意味”映画監督”です。また施工管理は、デザイナー水準の感性を持って建物を作っていくので、映画の現場で言ったら“カメラマン”のような立場の人間です。

ここからが設立の背景になりますが、「プロデューサー」「監督」「カメラマン」のような役割をすべて一社で担うことができれば、世の中の役に立つのではないか。そう考えたことが設立のきっかけです。それもプロデュース会社ではなく、プロデュース脳を持ちながらも、デザインも設計もしっかりできて、プロジェクトマネジメントや設計監理もできる設計事務所として立ち上げました。デザインだけでなく事業性も踏まえた上で、プロジェクトを成功に導くための意見ができる、そんな立場でクライアントに関わる会社にしたいと思い設立しました。他にあまりないユニークな設計事務所だと思います。


-そうした考えを持つようになった理由をさらに詳しくお伺いしたいです。

プロデュースの仕事をしていると、一連のプロジェクトの中で、建築家やインテリアデザイナーの役割が非常に大きな比重を占めます。ただ事業全体の方向性を考える上では、どうしてもディレクションする必要性が出てきます。私たちプロデューサーはプロジェクトの事業性担保をしなければなりません。建築家やデザイナーには自由な表現をしてもらいながらも、それを予算内に収め、最終的には事業として成功させる責任があるのです。

こうした状況があるなかで、プロデューサーと建築デザインを行う人が別チームでプロジェクトを進めると、客観性というメリットがある反面、どうしてもやり取りが煩雑になり、ロスが生まれることもあります。デザインクオリティと共にコスト管理やスピード感も求められる建築業界においては、建築デザイン側にもプロデュース脳があれば話はもっとスムーズに進みますし、それを求めるクライアントも一定数いるだろうと考えました。

さらに、自分自身が直営店舗の店舗開発担当をしていた経験から、運営者目線で現場を見ていたことも、こうした考えに大きな影響を与えました。当然のことですが、事業として継続できない店舗を作るべきではありません。だからこそ運営者側の視点を持って、限られたリソースの中での最高の提案をクライアントにしっかりと伝えられる立場でありたい。同じプロジェクトメンバーとして、対等に話ができるプロデューサー×建築デザインのチームがあればきっと社会の役に立つ。そんな想いを日々の仕事を通して自然と抱くようになったことが、今の会社をつくる原点になっています。


-仕事をする上でどのようなことを大切にされていますか?

スタンスとしては、クライアントの新規事業開発部の一員として臨むようにしています。新しいブランドの立ち上げや既存ブランドのリニューアルといったフェーズに関わることが多いため、常にチームの一員という姿勢でプロジェクトに向き合うようにしています。

また、デザインにおいて意識しているのは、”人が主役”であるということです。建築が主張しすぎるのではなく、使う人が心地よく過ごせる空間であることを大切にしています。
レストランであれば、訪れたお客様が料理を美味しいと思えるか、そこで働くシェフの方が快適に働けるか。オフィスであれば、働く人にとって仕事がしやすい環境か、会話が生まれやすいか。ホテルであれば、滞在するお客様が「ここなら一週間くらい泊まってもいいな」と思ってもらえるかどうか。私たちにとっての成功は、“その場を使う人の感情”を引き出せたかどうかにあります。建築や空間は、そうした感情を生み出す”装置”のようなものだと考えています。

さらに、建築は”つくって終わり”ではなく、長く人々に使われ続けるものであり、公共性の高いものであると考えています。一過性の流行りに流されるのではなく、経年美化を意識した素材選びや、その建物がどう街に馴染んでいくかといった視点も大切にしています。


-空間作りにおけるアイディアの着想はどんなところからでしょうか?

アイディアの源泉は、基本的にクライアントの中にあると考えています。そのためクライアントとの対話は丁寧に重ね、深掘りをします。CLOCKは会社として、「寄り添い、理解することで心を満たす場所をつくる」というパーパスがあります。クライアントに寄り添い、理解しようとする、そしてその後、アイディアの発想が始まります。ご依頼をいただいて、いきなりインターネットでデザインを探すのではなく、まず”言葉”から入るという感じです。形から入らずに言葉から作っていき、コンセプトやストーリーを固め、そこからデザインを探していく流れです。

デザインを考える上では日常の中で気づきや刺激を受けることも多いです。旅先で泊まったホテルや、海外を歩いていて見つけた家の塀の木の組み方が珍しかったのでつい写真を撮っていたり、古い本からヒントを得ることもあります。


-「NEUK shirokanetakanawa」のプロジェクトのオファーを受けた際にどういった印象を受けましたか?

まず、リアルゲイトさんとご一緒できることがとても嬉しかったです。そして、初めにお話を伺った際に「街に開かれたワークスペース」という印象を受け珍しく感じたのを覚えています。一般的にワークスペースはオフィス機能が中心ですが、NEUKではカフェや本屋さん、お花屋さんといった小さなお店が共存するような構想があり、まさにその通りに実現されたことに感動しました。働く場所でありながら、地域の人々が立ち寄れるような、まるで“街のスモールコンプレックス”のようであり、近隣の方々と働く人たちが自然と混ざり合う、サードプレイス的な役割も感じました。

また私たちは白金を拠点にお仕事させていただいているので、以前から白金のお仕事をしたかったというのもありました。小さいながらに自分たちでも地域貢献ができるんじゃないかと思い、その期待感みたいなものはありました。


-今回のプロジェクトでこだわった点や、印象的だった出来事をお伺いしたいです。

まずは「どんな人がこの場所を利用するのか」を深く掘り下げました。すると、もともとシェアハウスだった場所で築いた賑やかなコミュニティから、白金という土地柄に合った感度の高い大人のコミュニティ空間へと進化するイメージを持ちました。たとえばファッションやライフスタイルに拘りを持ち、自分らしい価値観を持つような人々を想像し、そのような層に響く空間づくりを意識しました。

NEUKは既存の建物自体が素晴らしかったので、建物の骨格や素材感をできる限り残せるよう、まずは余計な装飾をすべて取り払い、一度フラットな状態=真っ白に整え、クラシックな建物の表情を引き出しました。過去へのリスペクトがあるので、その空気感みたいなものは切り取りたいなと思っていましたし、せっかくのリノベーションなので、建物を剥がして配線を隠したいからと、全部ボードで覆ってしまっては新築そっくりさんみたいになり、建物自体の良さがどんどん薄れていってしまいます。できる限り躯体は出していくというのを意識しました。

そのうえで現代的な要素を足していくアプローチを取り、ちょっとしたモダンさみたいなものを組み合わせるため、アルミやステンレスなどの素材を使用しました。シーリングライトはオリジナルで制作し、デザインのポイントにしています。家具は新旧組み合わせていくという考え方で、新しく造作で作ったテーブルだけでなく、ヴィンテージのものも採用しています。普段はあまりオフィスに入っていないようなレザーチェアも作って組み合わせることで、他のワークスペースとは違う独創性が出つつ、全体として調和するのではないかと考えました。

またこのプロジェクトがきっかけで、白金にゆかりのあるクリエイター「NULL」の髙橋さんや植栽の「TOO GARDEN」の濱さんとの繋がりが生まれたことも印象的でした。


-最後に今後挑戦してみたいテーマやプロジェクトについてお聞かせください。

すでにいくつか取り組んでいるのですが、今後はより総合的なディレクション、プロデュースの仕事を増やしていきたいと思っています。インテリアデザインや建築にとどまらず、グラフィックデザインであったり、商品パッケージ、写真、ウェブといった領域まで含めて、トータルで手掛けるようなプロジェクトにもっと関わっていきたいです。

また、プロダクトデザインにも本格的に挑戦していきたいと考えています。これまでもプロジェクトの一環としてオリジナルの家具や照明を作ってきましたが、そういったものが実際に購入していただけるようになったら嬉しいです。

もちろんこういった挑戦は一人ではできません。信頼できる仲間がいるからこそ、前向きに取り組むことができると感じています。
やはり仲間の存在が大きいですね。

●Other projects



01.
SHIBUYA SAKURA STAGE

渋谷サクラステージ4階におけるフードホール全体の商環境デザインを手がけました。
細長い扇型の建物形状を活かし、駅側から恵比寿方面へと伸びる“街路”と、その先に広がるビアホールを空間の軸として計画。街路部分は天井を低く抑え、連なる空間に抑揚をもたせながら進んだ先で、一気に視界が広がるようにビアホールを配置しました。
街路沿いには誰もが自由に過ごせるコモンスペースを点在させ、日常の延長にある新しい「食」と「出会い」の場を演出しています。
素材や家具には繊細なディテールと手仕事の温かみを込め、カジュアルでありながら上質さを感じられる空間を目指しました。



02.
BANK

BANKは、兜町を訪れる人々の滞留の場となることを目指して設計した複合商業施設です。ベーカリーを中心としたショップ全体のデザインコンセプトは「ハーベスト(収穫)」とし、小麦畑や農家の小屋などから着想を得て素材を選定しました。元銀行という硬質で分厚い鉄筋コンクリート造の建物に対し、古材を使用した天井、土の風合いを残したタイル、特注染色を施した無垢材の床、藁製のペンダントライト、リネンカーテン、木枠の窓や扉などを用いることで、建物全体に柔らかさを加え、バランスを図っています。ベーカリー、ビストロ、カフェ、フラワーショップといった複数の店舗を間仕切らずに構成し、それぞれの場所に応じた機能を持たせながらも、ひとつの空間として緩やかにつなげることで、全体として居心地の良さを追求したデザインとしています。

「NEUK shirokanetakanawa」について

港区高輪1丁目に位置する築56年の旧シェアハウスをコンバージョンし、2025年4月にオープンした、カフェ・ショップ・オフィスからなる複合型施設。施設のコンセプトは「Attachment.」。お気に入りのアイテムに囲まれた部屋で働きながら、コーヒーを片手にお互いの趣味を語り合う。そこから自然とコミュニティが広がり、街へと繋がっていく。そんな、地域に寄り添い街と共に成長していく施設を目指しています。

名 称:NEUK shirokanetakanawa/ヌーク白金高輪
所在地:東京都港区高輪1−20-2
交 通:都営三田線・東京メトロ南北線「白金高輪駅」徒歩6分、都営浅草線・京急本線 「泉岳寺駅」 徒歩13分

OFFICIAL WEBSITE:https://neuk-shirokanetakanawa.jp/

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