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JOURNAL
2025.08.07

NULLファウンダー/クリエイティブディレクター
髙橋 慶成

「NEUK shirokanetakanawa」のアートワークを手掛けた「NULL(ナル)」ファウンダー/クリエイティブディレクターの髙橋慶成さんをご紹介します。

廃材や天然素材を”色”として捉えることからモノづくりのあり方を創造するデザイン/アートプロジェクト「NULL(ナル)」のファウンダー/クリエイティブディレクター髙橋慶成さんに「NEUK shirokanetakanawa」プロジェクトについて、「NULL(ナル)」の哲学、今後の展望などをお伺いしました。

NULLファウンダー/クリエイティブディレクター
髙橋 慶成

多摩美術大学デザイン科グラフィックデザイン専攻卒、Camberwell College of Arts MA Illustration卒。在学中よりイラストレーターとして活動。ブランドの概念からVI、建築設計まで一気通貫でデザインするYTRO DESIGN INSTITUTEを経営。本業での経験値を活かしながら、ものづくりのあり方をデザインするプロジェクトとして「NULL」を立ち上げ。

Instagram @null_narrative


-NULLのプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。

ブランドづくりやクリエイティブディレクション、建築設計を行う「YTRO DESIGN INSTITUTE(イトロデザインインスティテュート)」という会社をやっていまして、新しい価値を作り、皆様に届ける仕事に取り組んでいます。
その営みの中で、特に建築の分野においては、解体などの際に多くの廃棄物が出てしまっていることに課題を感じており、「まだ使えるものがたくさんあるはず」という思いが、心の中にあったんです。そんな時に、偶然にも千葉県のいすみ市で、空き家活用のプロジェクトが行われていることを知り、そのプロジェクトに参加したことが、「既にあるものを活かす」活動を始める大きな転機となりました。
国交省の空き家活用担い手事業に応募したところプランが採択され、そこから約5年間にわたり活動を続けました。現地の空き家をまわり、人々の話を伺っていく中で出てくる様々な課題にその都度対応しながら、一部過疎指定されている地域での空き家活用/まちづくりを取り巻く状況の困難さ、空き家や解体現場から回収した素材の特性や、地域内外の多様な人々を巻き込むことなど、実践を通して多くの学びを得ることができました。

NULL髙橋慶成氏

その活動の中で、廃材や古材活用に関する様々なアイデアを模索し続けてきました。古道具のアップサイクルや、空き家の持つ記憶を未来へ繋ぐ方法など、たくさんのトライアルを実施した中で生まれたアイデアの一つが、「廃材を含む未利用資源を塗料化する」というものでした。特殊塗装の専門家との出会いがあり、共に試行錯誤を繰り返した後に、現在の「NULL」の原型が出来てきたという経緯です。会社(YTRO DESIGN INSTITUTE)の事業内容との相性も良かったので、これを本格的なプロジェクトにしようと思い、廃材などの未利用資源を”色“として顕在化させることをきっかけにモノづくりのあり方をデザインする「NULL」が誕生しました。


-NULLの特徴の一つとしてステークホルダーを巻き込んだワークショップが印象的です。ワークショップを行う理由を教えてください。

NULLでは、必ずしも塗料化自体を目的としているわけではなく、どのように人々をプロジェクトに巻き込み、どのような仕組みが生まれるか、という点に重きを置いています。
ブランディングに長年携わってきた中で、綿密なマーケティングやリサーチを重ね、練り上げたコンセプトも、いざ世に出してみると、必ずしも期待通りに響かないこともありました。結局は、生活者を含めたプロジェクトに関わる人々が、如何に自分ごと化して想い入れを持てるかだと感じています。
だからこそ、プロジェクトの初期段階から、できるだけ多くのステークホルダーの方々に参画していただき、世界観を共有し、理解を深め、「皆で作っていく」空気を作り出すことで、プロジェクト全体の熱量を高めることができ、モノができた後の持続的な関わりに繋げることができると考えています。

解体前の建物を活用して開催したワークショップの様子


-NEUKのプロジェクトのオファーを受けた際どのような印象を受けましたか。

リアルゲイトさんのことは「PORTAL POINT(ポータルポイント)」や「SNUG(スナッグ)」などのプロジェクトで以前から存じ上げていて、そういった規模感で展開されている会社さんとお取り組みをする機会は、お話をいただいた当時はまだ多くなかったので、すごくワクワクしました。
初めての打ち合わせの際も、「NULL」の取り組みや考え方を深く理解していただけている実感があり、その時点から「NEUK」に関われることを楽しみにしていました。
また、偶然かもしれませんが、結果的に白金にゆかりのあるプロジェクトメンバーが集まった点も、このプロジェクトのユニークで面白い側面だと感じています。


-NEUKのプロジェクトで一番印象に残っている出来事を教えてください。

塗料化する素材集めをみんなでやった時間ですね。皆さん楽しそうに取り組んでくれていて、スペースデザインを手がけてくださったデザイン事務所「CLOCK」の皆さんも、「久しぶりに土を触った!」と、童心に帰ったかのように楽しそうに参加してくれました。また、ワークショップで子どもたちが真剣な表情で制作してくれている姿を見た時も、大きな喜びを感じました。
誰かが心から楽しんでいる場を、このプロジェクトを通して作り出せているのだと感じると、「やっていてよかったな」と心から思いますね。


-NEUKのプロジェクトは関わるメンバーの距離が近く同じ方向を向いているように感じました。

プロジェクトに携わらせていただいた身としてもそれは感じていました。「NEUK」は一旦完成しましたが今も状況は気になります。自宅も近いので地域のこともなんとなく分かっている中で、完成時がピークではなく、さらにどうやって持続的な繋がりを作っていくか、都度アイデアも出しながら、これからも近くで見ていたいなと思っています。

メンバーと共同で集めた素材。NEUKでは工事の際に出た廃材や土地固有の素材を中心に使用した。


-今回のプロジェクトで制作していただいた作品の特徴や拘りの点を教えてください。

いつも意識していることではあるのですが、出来るだけ「自分一人で作らない」ことです。今回のプロジェクトでもそこには特に気をつけながら取り組みました。アイデア出しから素材選びに至るまで、リアルゲイトさんはじめ、プロジェクトに関わるメンバーと密に対話を重ねました。共創して一つの作品を作り上げたという空気を大切にしたかったので、塗る素材の選定は「CLOCK」さんにお任せし、それを受けて私と職人さんで応えて形にしていきました。多くのやり取りが発生するため、コミュニケーションコストは決して低くありませんでしたが、メンバー全員の協力のおかげで、スムーズに進行することができたと感じています。「共創」プロセスならではの、良いモノづくりができたと思っています。

NEUKのプロジェクトではアートとサイドボードを制作


-NULLの取り組みを見ていると環境への文脈はもちろんですが純粋にものとしてのデザインがとても素敵だなと感じます。

デザイン面も意識はしていますね。環境に関わるプロジェクトは、非常に深く考えられ、意識の高い取り組みが多いのですが、現状では、クリエイティブな側面、デザインの領域との融合が十分に進んでいないと感じることがあります。素晴らしい技術がありながらも、なかなか世の中に浸透しないという声もよく耳にします。そんな中で、私としては、純粋に「デザインが良い」とか「塗るのが楽しい」みたいな、モノづくりの喜びや拘りといった美大卒ならではのアプローチをすることで、より多くの人に興味や関心を持っていただけたらと思っています。そうした入り口から、環境問題に触れてもらう方が自然かなと思いますし、何よりその方が楽しいですよね。
昔は、モノづくり自体がもっと身近で、多くの人が日常的に行っていたと思います。現代では、専門家以外の生活者がモノづくりを行う機会はなかなかないですが、本来誰もが楽しみながらやっていいことだと思うので、「NULL」の取り組みを通して「新しいものを買う」以外の、「自分で作る」や「直して使う」など、消費以外の選択肢を増やしていければいいなと思っています。


-今後の展望を教えてください。

様々な場所でワークショップを実施し、少しずつですが廃材活用の可能性やモノづくりの楽しさを知ってもらう入り口は作れている実感があります。今後は、地域や事業の枠組みの中で、仕組みづくりや素材の循環をデザインしていければと考えているので、例えば、建物を建設、または改修する際に、その周辺の素材や廃材を積極的に活用していく中で、その建物を基点に、そこで交わる人々がモノづくりや素材の循環に関わる仕組みを作り、持続可能なエコシステムのようなものを構築できないかと考えています。
実際に幾つかプロジェクトが動き出していますが、自治体規模での廃材活用の取り組みや、企業さんの廃棄物を起点としたプロジェクトなど、このような取り組みを増やしていくことで、その場所ならではの個性あるモノづくりが生まれてくると思っています。リアルゲイトさんとも、建物とその周辺を繋いだ、地域に根づくプロジェクトを作っていけたら嬉しいです!

●Other projects


01.
SANU 2nd home HIARI

ライフスタイルブランド「SANU 2nd Home」のいすみ拠点であるHIARIの居室内に設置するアートワークや家具のディレクション/製作をしました。いすみ地域で採取/回収した天然素材や廃材(海岸の砂、土、竹害対策の竹炭など)を塗料化し、運営者や設計士、現地の作家も交えワークショップ型で、アートワーク、スピーカー、コーヒーテーブルを製作/塗装。また、地域で不要になった布を集めてモビールも製作しました。随所で、いすみならではの素材を体感できる空間になっています。


02.
HOTEL MIYAM MATSUBARAKO

SX Feild構想を掲げる長野県の小海町に出来たHOTEL MIYAM。このホテルの改修のプロセスにおいて、住民参加型で地域の未利用資源は探し、塗料化するワークショップを実施しました。そこで見つけた8つの素材を使ったアートワークをホテルのエントランスに設置し、また素材の名前を冠した各部屋のキーホルダーに、それぞれの素材を塗装。宿泊客が素材の物語を知り、体感できる仕組みになっています。

「NEUK shirokanetakanawa」について

港区高輪1丁目に位置する築56年の旧シェアハウスをコンバージョンし、2025年4月にオープンした、カフェ・ショップ・オフィスからなる複合型施設。施設のコンセプトは「Attachment.」。お気に入りのアイテムに囲まれた部屋で働きながら、コーヒーを片手にお互いの趣味を語り合う。そこから自然とコミュニティが広がり、街へと繋がっていく。そんな、地域に寄り添い街と共に成長していく施設を目指しています。

名 称:NEUK shirokanetakanawa/ヌーク白金高輪
所在地:東京都港区高輪1−20-2
交 通:都営三田線・東京メトロ南北線「白金高輪駅」徒歩6分、都営浅草線・京急本線 「泉岳寺駅」 徒歩13分

OFFICIAL WEBSITE:https://neuk-shirokanetakanawa.jp/

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